残《のこ》らずやってしまったので、馬吉《うまきち》はあとをも見《み》ずに、馬《うま》の口をぐいぐい引《ひ》っぱって、駆《か》け出《だ》して行《い》こうとしました。一生懸命《いっしょうけんめい》駆《か》け出《だ》して、やっと一|町《ちょう》も逃《に》げたと思《おも》うころ、山姥《やまうば》は大根《だいこん》を残《のこ》らず食《た》べてしまって、またどんどん追《お》っかけて来《き》ました。間《ま》もなく追《お》いつくと、こんどは、
「馬《うま》の足《あし》を一|本《ぽん》。」
 といいました。もう馬吉《うまきち》は生《い》きている空《そら》はありません。しかたがないので、これもぶるぶるふるえている馬《うま》を山姥《やまうば》にあずけたまま、から身《み》になって、どんどん、どんどん、駆《か》け出《だ》しました。するとどうしたものか、気《き》がせくのと、道《みち》が暗《くら》いので、よけいあわてて、どこかで道《みち》を間違《まちが》えたものとみえて、いくら駆《か》けても駆《か》けても、里《さと》の方《ほう》へは降《お》りられません。行《い》けば行《い》くほど山が深《ふか》くなって、もうどこをど
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