《ごよう》があるのでしょうか。偶然《ぐうぜん》ながら、こうして一晩《ひとばん》のお宿《やど》を願《ねが》ったお礼《れい》に、何《なに》かして上《あ》げることがあれば何《なん》でもしましょう。」
 と玄翁《げんのう》はいいました。
 すると女は涙《なみだ》をはらはらとこぼして、
「あなたは有《あ》り難《がた》いお坊様《ぼうさま》のようですから、くわしくわたしの話《はなし》を聞《き》いて頂《いただ》いて、その上にお願《ねが》いがあるのでございます。お聞《き》きになったこともあるでしょうが、じつはわたしは、むかしなにがしの院《いん》さまの御所《ごしょ》に召《め》し使《つか》われた玉藻前《たまものまえ》という者《もの》でございます。もとをいいますと天竺《てんじく》の野《の》に住《す》んだ九|尾《び》のきつねでした。きつねは千|年《ねん》たつと美《うつく》しい人間《にんげん》の女に化《ば》けるものです。わたしも千|年《ねん》の功《こう》を積《つ》むと、きれいな娘《むすめ》の姿《すがた》になりました。するとある日|天羅国《てんらこく》の班足王《はんそくおう》という王《おう》さまが狩《か》りの帰《か
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