よ》んだと思《おも》ったのは、気《き》の迷《まよ》いであったか。」と玄翁《げんのう》は思《おも》って、起《お》き上《あ》がりもしずに、そのまま目をつぶって寝《ね》ようとしました。するとまたうしろの方《ほう》で、こんどは前《まえ》よりもはっきり、
「和尚《おしょう》さま、和尚《おしょう》さま。」
と呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。
こんどこそ間違《まちが》いはないと玄翁《げんのう》が思《おも》って、ひょいと起《お》き上《あ》がりますと、どうでしょう、さっきの石のあった所《ところ》がほんのり明《あか》るくなって、そのかすかな光《ひかり》の中に若《わか》い女のような姿《すがた》がぼんやり見《み》えていました。
玄翁《げんのう》もさすがにびっくりして、その女に向《む》かって、
「呼《よ》んだのはあなたですか。あなたはどなたです。」
とたずねました。
すると女はかすかに笑《わら》ったようでしたが、やがて、
「びっくりなさるのはむりはありません。わたしはこの石の精《せい》です。」
といいました。
「その石の精《せい》がどうして迷《まよ》って出て来《き》たのです。何《なに》かわたしに御用
前へ
次へ
全12ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング