か》に、大きな石の立《た》っているのが白《しろ》く見《み》えました。
「やれやれ、これで露《つゆ》をしのぐだけの屋根《やね》が出来《でき》た。」
 と玄翁《げんのう》はつぶやきながら石のそばに寄《よ》ってみますと、ちょうど人間《にんげん》の背《せい》の高《たか》さぐらいのすべすべしたきれいな石でした。玄翁《げんのう》は石の頭《あたま》に笠《かさ》をかぶせ、草《くさ》を結《むす》んでまくらにして、つえをわきに引《ひ》き寄《よ》せたまま、ころりと横《よこ》になりますと、何《なに》しろくたびれきっているものですから、間《ま》もなくとろとろと眠《ねむ》りかけました。
 するとしばらくして、眠《ねむ》っているまくら元《もと》で、
「和尚《おしょう》さま、和尚《おしょう》さま。」
 とかすかに呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。初《はじ》めは夢《ゆめ》うつつでその声《こえ》を聞《き》いていましたが、ふと気《き》がついて目をあけますと、もう一面《いちめん》の真《ま》っ暗《くら》やみで、はるかな空《そら》の上で、かすかに星《ほし》が二つ三つ光《ひか》っているだけでした。
「すると今《いま》しがただれか呼《
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