《げんのう》はこの原《はら》を通《とお》りかかると、折《おり》ふし秋《あき》の末《すえ》のことで、もう枯《か》れかけたすすき尾花《おばな》が白《しろ》い綿《わた》をちらしたように一|面《めん》にのびて、その間《あいだ》に咲《さ》き残《のこ》った野菊《のぎく》やおみなえしが寂《さび》しそうにのぞいていました。
 玄翁和尚《げんのうおしょう》は一|日《にち》野原《のはら》を歩《ある》きどおしに歩《ある》いてまだ半分《はんぶん》も行かないうちに、短《みじか》い秋《あき》の日はもう暮《く》れかけて、見《み》る見《み》るそこらが暗《くら》くなってきました。この先《さき》いくら行っても泊《とま》る家《いえ》を見《み》つけるあてはないのですから、今夜《こんや》は野宿《のじゅく》をするかくごをきめて、それにしても、せめて腰《こし》をかけて休《やす》めるだけの木の陰《かげ》でもないかと思《おも》って、夕《ゆう》やみの中でしきりに見《み》ましたが、一|本《ぽん》のひょろひょろ松《まつ》さえ立《た》ってはいませんでした。それでもと思《おも》ってまた少《すこ》し行ってみると、草原《くさはら》の真《ま》ん中《な
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