か》に、大きな石の立《た》っているのが白《しろ》く見《み》えました。
「やれやれ、これで露《つゆ》をしのぐだけの屋根《やね》が出来《でき》た。」
と玄翁《げんのう》はつぶやきながら石のそばに寄《よ》ってみますと、ちょうど人間《にんげん》の背《せい》の高《たか》さぐらいのすべすべしたきれいな石でした。玄翁《げんのう》は石の頭《あたま》に笠《かさ》をかぶせ、草《くさ》を結《むす》んでまくらにして、つえをわきに引《ひ》き寄《よ》せたまま、ころりと横《よこ》になりますと、何《なに》しろくたびれきっているものですから、間《ま》もなくとろとろと眠《ねむ》りかけました。
するとしばらくして、眠《ねむ》っているまくら元《もと》で、
「和尚《おしょう》さま、和尚《おしょう》さま。」
とかすかに呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。初《はじ》めは夢《ゆめ》うつつでその声《こえ》を聞《き》いていましたが、ふと気《き》がついて目をあけますと、もう一面《いちめん》の真《ま》っ暗《くら》やみで、はるかな空《そら》の上で、かすかに星《ほし》が二つ三つ光《ひか》っているだけでした。
「すると今《いま》しがただれか呼《よ》んだと思《おも》ったのは、気《き》の迷《まよ》いであったか。」と玄翁《げんのう》は思《おも》って、起《お》き上《あ》がりもしずに、そのまま目をつぶって寝《ね》ようとしました。するとまたうしろの方《ほう》で、こんどは前《まえ》よりもはっきり、
「和尚《おしょう》さま、和尚《おしょう》さま。」
と呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。
こんどこそ間違《まちが》いはないと玄翁《げんのう》が思《おも》って、ひょいと起《お》き上《あ》がりますと、どうでしょう、さっきの石のあった所《ところ》がほんのり明《あか》るくなって、そのかすかな光《ひかり》の中に若《わか》い女のような姿《すがた》がぼんやり見《み》えていました。
玄翁《げんのう》もさすがにびっくりして、その女に向《む》かって、
「呼《よ》んだのはあなたですか。あなたはどなたです。」
とたずねました。
すると女はかすかに笑《わら》ったようでしたが、やがて、
「びっくりなさるのはむりはありません。わたしはこの石の精《せい》です。」
といいました。
「その石の精《せい》がどうして迷《まよ》って出て来《き》たのです。何《なに》かわたしに御用
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