こしました。見物のなかには、れいの病院の志願助手が、ゆうべの大事件はけろりと忘れたような顔をしてまじっていました。たれも取りにくるものがないので、うわおいぐつは相変らずはいたままでした。それになにしろ往来は道がひどいのでこれはとんだちょうほうでした。
この詩を助手はおもしろいとおもいました。なによりもそのおもいつきが心をひきました。そういう目がねがあったらさぞいいだろう。じょうずにつかうと、その目がねで、ひとの心のなかをみとおすことができるわけだ。これは来年のことを今みるよりも、もっとおもしろいことだとかんがえました。なぜなら、さきのことはさきになれば分かるが、ひとの心なんてめったに分かるものではないのです。
「そこで、おれはまずいちばんまえの紳士貴女諸君の列をながめることにする。――いきなり、あの人たちの胸のなかにとびこんだらどうだろう。まあ窓だな、店をひろげたようにいろいろな物がならんでいるだろう。どんなにおれの目は、その店のなかをきょろきょろすることだろう。きっと、あすこの奥さんの所は大きな小間物屋にはいったようだろう。こちらのほうはきっと店がからっぽだろう。だいぶそうじがとど
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