うな。」
夜番がこういって、こころのねがいを口にだしますと、はいていたうわおいぐつはみるみる効能をあらわして、夜番のたましいはするすると中尉のからだとこころのなかへ運んで持っていかれました。
そこで夜番は、二階のへやにはいって、ちいさなばら色の紙を指のまたにはさんで持ちました。それには詩が、中尉君自作の詩が書いてありました。それはどんな人だって、一生にいちどは心のなかを歌にうたいたい気持になるおりがあるもので、そういうとき、おもったとおりを紙に書けば[#「書けば」は底本では「書けは」]、詩になります。そこで紙にはこう書いてありました。
[#ここから3字下げ]
「ああ、金持でありたいな。」
「ああ、金持でありたいな。」おれはたびたびそうおもった。
やっと二尺のがきのとき、おれはいろんな望をおこした。
ああ、金持でありたいな――そうして士官になろうとした、
サーベルさげて、軍服すがたに、負革《おいかわ》かけて。
時節がくると、おれも士官になりすました。
さてはや、いっこう金《かね》はできない。なさけないやつ。
全能の神さま、お助けください。
ある晩、元気で浮かれていると、
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