幸福のうわおいぐつ
LYKKENS KALOSKER
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)カルタ卓《づくえ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大|僧正《そうじょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#挿絵(fig42380_01.png)入る]
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      一 お話のはじまり

[#挿絵(fig42380_01.png)入る]
 コペンハーゲンで、そこの東通の、王立新市場からとおくない一軒の家は、たいそうおおぜいのお客でにぎわっていました。人と人とのおつきあいでは、ときおりこちらからお客をしておけば、そのうち、こちらもお客によばれるといったものでしてね。お客の半分はとうにカルタ卓《づくえ》にむかっていました。あとの半分は、主人役の奥さんから、今しがた出た、
「さあ、こんどはなにがはじまりしましょうね。」というごあいさつが、どんな結果になってあらわれるかと、手ぐすねひいて、待っているのです。もうずいぶんお客さま同士の話がはずむだけはずんでいました。そういう話のなかには、中世紀時代の話もでました。あるひとりは、あの時代は今の時代にくらべては、くらべものにならないほどよかったと主張しました。じっさい司法参事官《しほうさんじかん》のクナップ氏などは、この主張《しゅうちょう》にとても熱心で、さっそく主人役の奥さんを身方につけてしまったほどでした。そうしてこのふたりは*エールステッドが年報誌上にかいた古近代論の、現代びいきな説にたいして、やかましい攻撃をはじめかけたくらいです。司法参事官の説にしたがえば、デンマルクの**ハンス王時代といえば、人間はじまって以来、いちばんりっぱな、幸福な時代であったというのでした。
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*デンマルクの名高い物理学者(一七七七―一八五一)。
**ヨハン二世(一四八一―一五一三)。選挙侯エルンスト・フォン・ザクセンのむすめクリスティーネと婚。ノルウェイ・スエーデン王を兼ねた。
[#ここで字下げ終わり]
 さて会話は、こんなことで、賛否《さんぴ》こもごも花が咲いて、あいだに配達の夕刊がとどいたので、ちょっと話がとぎれたぐらいのことでした。でも、新聞に
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