ま》がかかっていきましたが、片《かた》っぱしからころころ、ころがされてしまいました。
「何《なん》だ。弱虫《よわむし》だなあ。みんないっぺんにかかって来《こ》い。」
 と金太郎《きんたろう》が言《い》いますと、くやしがってうさぎが足《あし》を持《も》つやら猿《さる》が首《くび》に手《て》をかけるやら、大《おお》さわぎになりました。そして鹿《しか》が腰《こし》を押《お》して熊《くま》が胸《むね》に組《く》みついて、みんな総《そう》がかりでうんうんいって、金太郎《きんたろう》を倒《たお》そうとしましたが、どうしても倒《たお》すことができませんでした。金太郎《きんたろう》はおしまいにじれったくなって、からだを一振《ひとふ》りうんと振《ふ》りますと、うさぎも猿《さる》も鹿《しか》も熊《くま》もみんないっぺんにごろごろ、ごろごろ土俵《どひょう》の外《そと》にころげ出《だ》してしまいました。
「ああ、いたい。ああ、いたい。」
 とみんな口々《くちぐち》に言《い》って、腰《こし》をさすったり、肩《かた》をもんだりしていました。金太郎《きんたろう》は、
「さあ、おれにまけてかわいそうだから、みんなに分《わ》けてやろう。」
 と言《い》って、うさぎと猿《さる》と鹿《しか》と熊《くま》をまわりにぐるりに並《なら》ばせて、自分《じぶん》がまん中に座《すわ》って、おむすびを分《わ》けてみんなで食《た》べました。しばらくすると金太郎《きんたろう》は、
「ああ、うまかった。さあ、もう帰《かえ》ろう。」
 と言《い》って、またみんなを連《つ》れて帰《かえ》っていきました。

     二

 帰《かえ》って行《い》く道々《みちみち》も、森《もり》の中でかけっくらをしたり、岩《いわ》の上で鬼《おに》ごっこをしたりして遊《あそ》び遊《あそ》び行《い》くうちに、大きな谷川《たにがわ》のふちへ出ました。水はごうごうと音《おと》を立《た》てて、えらい勢《いきお》いで流《なが》れて行《い》きますが、あいにく橋《はし》がかかっていませんでした。みんなは、
「どうしましょう。あとへ引《ひ》き返《かえ》しましょうか。」
 と言《い》いました。金太郎《きんたろう》はひとりへいきな顔《かお》をして、
「なあにいいよ。」
 と言《い》いながら、そこらを見《み》まわしますと、ちょうど川《かわ》の岸《きし》に二《ふた》かか
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