《へいけ》の一門《いちもん》に見立《みた》てて、その中で一ばん大きな木に清盛《きよもり》という名《な》をつけて、小《ちい》さな木太刀《きだち》でぽんぽん打《う》ちました。
するとある晩《ばん》のことでした。牛若《うしわか》がいつものように僧正《そうじょう》ガ谷《たに》へ出かけて剣術《けんじゅつ》のおけいこをしていますと、どこからか鼻《はな》のばかに高《たか》い、見上《みあ》げるような大男《おおおとこ》が、手に羽《は》うちわをもって、ぬっと出て来《き》ました。そしてだまって牛若《うしわか》のすることを見《み》ていました。牛若《うしわか》は不思議《ふしぎ》に思《おも》って、
「お前《まえ》はだれだ。」
といいますと、その男《おとこ》は笑《わら》って、
「おれはこの僧正《そうじょう》ガ谷《たに》に住《す》むてんぐだ。お前《まえ》の剣術《けんじゅつ》はまずくって見《み》ていられない。今夜《こんや》からおれが教《おし》えてやろう。」
といいました。
「それはありがとう。じゃあ、おしえて下《くだ》さい。」
と、牛若《うしわか》は木太刀《きだち》を振《ふ》るって打《う》ってかかりました。てんぐはかるく羽《は》うちわであしらいました。
この時《とき》からてんぐは毎晩《まいばん》牛若《うしわか》に剣術《けんじゅつ》をおしえてくれました。牛若《うしわか》はずんずん剣術《けんじゅつ》がうまくなりました。
するうち、牛若《うしわか》が毎晩《まいばん》おそく僧正《そうじょう》ガ谷《たに》へ行って、あやしい者《もの》から剣術《けんじゅつ》をおそわっているということを和尚《おしょう》さんに告《つ》げ口《ぐち》したものがありました。和尚《おしょう》さんはびっくりして、さっそく牛若《うしわか》をよんで、髪《かみ》を剃《そ》って坊《ぼう》さんにしようとしました。牛若《うしわか》は、
「いやです。」
といいながら、いきなり小太刀《こだち》に手をかけて、こわい顔《かお》をして和尚《おしょう》さんをにらめました。
その勢《いきお》いにおそれて、髪《かみ》を剃《そ》ることは止《や》めました。
牛若《うしわか》はこうしているとまた、
「坊《ぼう》さんになれ。」
といわれるにちがいないと思《おも》って、ある日《ひ》そっと鞍馬山《くらまやま》を下《お》りて京都《きょうと》へ出ました。
牛若《う
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