さえることができないようなふうで、馬車にのりました。
三
さて、王子は、その晩、たれも知らない、どこぞのりっぱな王女が、いましがた馬車にのって、ぶとう会についたという知らせを聞いて、わざわざ迎えに出て来ました。王子は、王女が馬車からおりると、その手をとって広間の、みんなおおぜい居る中へ案内《あんない》して来ました。すると、広間の中はたちまち、しんと静まりかえって、みんなダンスをやめました。バイオリンの音《ね》もしなくなりました。それは、このめずらしいお客さまの美しさに、たれもかれも気をとられて、ぼんやりしてしまったからでした。そのなかで、ただかすかに、こそこそ、ささやく声がして、
「ほう、きれいだなあ。ほう、きれいだなあ。」とばかり、いっていました。
王様も、もうお年はとっておいででしたけれど、そのときは、おもわずサンドリヨンの顔を、じっとながめずにはいられませんでした。そうして、そっとお妃の耳もとにささやいて、
「こんなきれいな、かわいらしいむすめを見るのは、久しぶりだ。」と、いっておいでになりました。
貴婦人《きふじん》たちは、貴婦人たちで、みんなじろじ
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