《さむらい》でした。奥方《おくがた》がこのごろ重《おも》い病《やまい》にかかって、いろいろの医者《いしゃ》に見《み》せても少《すこ》しも薬《くすり》の効《き》き目《め》が見《み》えないものですから、ちょうど自分《じぶん》のにいさんが芦屋《あしや》の道満《どうまん》といって、その時分《じぶん》名高《なだか》い学者《がくしゃ》で、天子様《てんしさま》のおそばに仕《つか》えて、天文《てんもん》や占《うらな》いでは日本《にっぽん》一の名人《めいじん》という評判《ひょうばん》だったのを幸《さいわ》い、ある時《とき》悪右衛門《あくうえもん》は道満《どうまん》に頼《たの》んで、来《き》て見《み》てもらいますと、奥方《おくがた》の病気《びょうき》はただの薬《くすり》では治《なお》らない、若《わか》い牝狐《めぎつね》の生《い》き肝《ぎも》を取《と》ってせんじて飲《の》ませるよりほかにないということでした。そこで信田《しのだ》の森《もり》へ大ぜい家来《けらい》を連《つ》れて狐狩《きつねが》りに来《き》たのでした。けれども運悪《うんわる》く、一|日《にち》森《もり》の中を駆《か》け回《まわ》っても一|匹《ぴ
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