「恋《こい》しくば
たずね来《き》てみよ、
和泉《いずみ》なる
しのだの森《もり》の
うらみ葛《くず》の葉《は》。」
[#ここで字下げ終わり]
 母親《ははおや》がほんとうにいなくなったことを知《し》って、子供《こども》はどんなに悲《かな》しんだでしょう。
「かあちゃん、かあちゃん、どこへ行ったの。もうけっして悪《わる》いことはしませんから、早《はや》く帰《かえ》って来《き》て下《くだ》さい。」
 こういいながら、子供《こども》はいつまでもやみの中を探《さが》し回《まわ》っていました。さっき顔《かお》の変《か》わったのに驚《おどろ》いて声《こえ》を立《た》てたので、母親《ははおや》がおこって行ってしまったのだと思《おも》って、よけい悲《かな》しくなりました。狐《きつね》のかあさんでも、化《ば》け物《もの》のかあさんでもかまわない、どうしてもかあさんに会《あ》いたいといって、子供《こども》はききませんでした。
 あんまり子供《こども》が泣《な》くので、保名《やすな》は困《こま》って、子供《こども》の手を引《ひ》いて、当《あ》てどもなく真《ま》っ暗《くら》やみの森《もり》の中を探《さが》し
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