のふたをあけると、なるほど赤《あか》と白の猫《ねこ》が二|匹《ひき》飛《と》び出《だ》しました。天子《てんし》さまも役人《やくにん》たちも舌《した》をまいて驚《おどろ》きました。
 今《いま》のは勝負《しょうぶ》なしにすんだので、又《また》、四五|人《にん》のお役人《やくにん》が、大きなお三方《さんぽう》に何《なに》か載《の》せて、その上に厚《あつ》い布《ぬの》をかけて運《はこ》んで来《き》ました。道満《どうまん》はそれを見《み》ると、こんどこそ晴明《せいめい》に先《せん》をこされまいというので、いきり立《た》って、
「ではわたくしから申《もう》し上《あ》げます。お三方《さんぽう》の上にお載《の》せになったのは、みかん十五です。」
 といいました。
 晴明《せいめい》はそれを聞《き》いて、「ふん。」と心《こころ》の中であざ笑《わら》いました。そして少《すこ》しいたずらをして、高慢《こうまん》らしい道満《どうまん》の鼻《はな》をあかせてやりたいと思《おも》いました。そこでそっと物《もの》を換《か》える術《じゅつ》を使《つか》って、お三方《さんぽう》の中の品物《しなもの》を素早《すばや》く換《か》えてしまいました。そしてすました顔《かお》をしながら、
「これはみかん十五ではございません。ねずみ十五|匹《ひき》をお入《い》れになったと存《ぞん》じます。」
 といいました。天子《てんし》さまはじめお役人《やくにん》たちはびっくりしました。こんどこそは晴明《せいめい》がしくじったと思《おも》いました。そばについていたおとうさんの保名《やすな》も真《ま》っ青《さお》になって、息子《むすこ》のそでを引《ひ》きました。けれども晴明《せいめい》はあくまで平気《へいき》な顔《かお》をしていました。道満《どうまん》は真《ま》っ赤《か》になって、
「さあ、詐欺師《さぎし》の証拠《しょうこ》は現《あらわ》れましたぞ。中を早《はや》くおあけなさい、早《はや》く。」
 とさけびました。
 お役人《やくにん》はお三方《さんぽう》の覆《おお》いをとりました。するとどうでしょう。お三方《さんぽう》の上に載《の》せたのはみかんではなくって、今《いま》の今《いま》まで晴明《せいめい》のほかだれ一人《ひとり》思《おも》いもかけなかったねずみが十五|匹《ひき》、ちょろちょろ飛《と》び出《だ》して、御殿《ごてん
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