位《くらい》を取《と》り上《あ》げて、追《お》い返《かえ》して頂《いただ》きとうございます。」
 と申《もう》し上《あ》げました。
「でもお前《まえ》がもし童子《どうじ》に負《ま》けたらどうするか。」
 と天子《てんし》さまは少《すこ》しおこって、おたずねになりました。
「はい、万々一《まんまんいち》わたくしが負《ま》けるようなことがございましたら、それこそわたくしの頂《いただ》いておりますお役《やく》も位《くらい》も残《のこ》らずお返《かえ》し申《もう》し上《あ》げて、わたくしは童子《どうじ》の弟子《でし》になって、修業《しゅぎょう》をいたします。」
 と、高慢《こうまん》な顔《かお》をしてお答《こた》え申《もう》し上《あ》げました。
 そこで天子《てんし》さまは阿倍《あべ》の晴明親子《せいめいおやこ》をお呼《よ》び出《だ》しになり、御前《ごぜん》で術《じゅつ》比《くら》べさせてごらんになることになりました。道満《どうまん》と晴明《せいめい》が右左《みぎひだり》に別《わか》れて席《せき》につきますと、やがて役人《やくにん》が四五|人《にん》かかって、重《おも》そうに大きな長持《ながもち》を担《かつ》いで来《き》て、そこへすえました。
「道満《どうまん》、晴明《せいめい》、この長持《ながもち》の中には何《なに》が入《はい》っているか、当《あ》ててみよ、という陛下《へいか》の仰《おお》せです。」
 とお役人《やくにん》の頭《かしら》がいいました。
 すると道満《どうまん》は、さもとくいらしい顔《かお》をして、
「晴明《せいめい》、まずお前《まえ》からいうがいい。子供《こども》のことだ、先《さき》を譲《ゆず》ってやる。」
 といいました。晴明《せいめい》はその時《とき》、丁寧《ていねい》に頭《あたま》を下《さ》げて、
「では失礼《しつれい》ですが、わたくしから申《もう》し上《あ》げましょう。長持《ながもち》の中にお入《い》れになったのは猫《ねこ》二|匹《ひき》です。」
 といいました。
 晴明《せいめい》がうまくいいあてたので、道満《どうまん》はぎょっとしました。
「ふん、まぐれ当《あ》たりに当《あ》たったな。いかにも二|匹《ひき》の猫《ねこ》に相違《そうい》ありません。それで一|匹《ぴき》は赤猫《あかねこ》、一|匹《ぴき》は白猫《しろねこ》です。」
 長持《ながもち》
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