ていました。
三
しばらくすると、おじいさんとおばあさんは帰《かえ》って来《き》ましたが、なんにも知《し》らないものですから、
「瓜子姫子《うりこひめこ》、よくお留守番《るすばん》をしていたね。さぞさびしかったろう。」
といって、頭《あたま》をさすってやりますと、あまんじゃくは、
「ああ、ああ。」
といいながら、舌《した》をそっと出《だ》しました。
するとおもての方《ほう》が、急《きゅう》にがやがやそうぞうしくなって、りっぱななりをしたお侍《さむらい》が大《おお》ぜい、ぴかぴかぬり立《た》てた、きれいなおかごをかついでやって来《き》て、おじいさんとおばあさんのうちの前《まえ》にとまりました。おじいさんとおばあさんは、何事《なにごと》がはじまったのかと思《おも》って、びくびくしていますと、お侍《さむらい》はその時《とき》、おじいさんとおばあさんに向《む》かって、
「お前《まえ》の娘《むすめ》は大《たい》そう美《うつく》しい織物《おりもの》を織《お》るという評判《ひょうばん》だ。お城《しろ》の殿《との》さまと奥方《おくがた》が、お前《まえ》の娘《むすめ》の機《はた》を織《お》るところが見《み》たいという仰《おお》せだから、このかごに乗《の》って来《き》てもらいたい。」
といいました。
おじいさんとおばあさんは大《たい》そうよろこんで、瓜子姫子《うりこひめこ》に化《ば》けたあまんじゃくをおかごに乗《の》せました。お侍《さむらい》たちがあまんじゃくを乗《の》せて、裏《うら》の山を通《とお》りかかりますと、柿《かき》の木の上で、
「ああん、ああん、瓜子姫子《うりこひめこ》の乗《の》るかごに、あまんじゃくが乗《の》って行く。瓜子姫子《うりこひめこ》の乗《の》るかごに、あまんじゃくが乗《の》って行く。」
という声《こえ》がしました。
「おや、へんだ。」
と思《おも》って、そばへ寄《よ》ってみますと、かわいそうに瓜子姫子《うりこひめこ》は、あまんじゃくのきたない着物《きもの》を着《き》せられて、木の上にしばりつけられていました。おじいさんは瓜子姫子《うりこひめこ》を見《み》つけると、急《いそ》いで行って、木から下《お》ろしてやりました。お侍《さむらい》たちも大《たい》そうおこって、あまんじゃくをおかごから引《ひ》きずり出《だ》して、その代《か》わり瓜子
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング