くない顔をして、ふさぎこんでばかりいました。
 その様子《ようす》を見ると、乙姫《おとひめ》さまは心配《しんぱい》して、
「浦島さん、ご気分でもおわるいのですか」
とおききになりました。浦島はもじもじしながら、
「いいえ、そうではありません。じつはうちへ帰りたくなったものですから」
といいますと、乙姫さまはきゅうに、たいそうがっかりした様子をなさいました。
「まあ、それはざんねんでございますこと。でもあなたのお顔をはいけんいたしますと、この上おひきとめ申しても、むだのようにおもわれます。ではいたし方《かた》ございません、行っていらっしゃいまし」
 こうかなしそうにいって、乙姫さまは、奥《おく》からきれいな宝石《ほうせき》でかざった箱《はこ》を持っておいでになって、
「これは玉手箱《たまてばこ》といって、なかには、人間のいちばんだいじなたからがこめてございます。これをおわかれのしるしにさし上げますから、お持ちかえりくださいまし。ですが、あなたがもういちどりゅう[#「りゅう」に傍点]宮《ぐう》へ帰ってきたいとおぼしめすなら、どんなことがあっても、けっしてこの箱をあけてごらんになってはいけま
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