て忘《わす》れてはいません。自分がくらしてゆくだけのお金は取れます」
みんなの顔がかがやいた。わたしはかれらがわたしの考えを聞いてそんなにも喜《よろこ》んでくれたのでうれしかった。長いあいだわたしたちは話をして、それからエチエネットは一人ひとりねどこへはいらせた。けれどその晩《ばん》はだれもろくろくねむる者はなかった。とりわけわたしはひと晩《ばん》ねむれなかった。
あくる日夜が明けると、リーズはわたしを庭へ連《つ》れ出した。
「ぼくに言いたいことがあるの」とわたしはたずねた。
かの女は何度もうなずいた。
「わたしたちが別《わか》れて行くのがいやなんでしょう。それは言うまでもない。あなたの顔でわかっている。ぼくだってまったく悲しいんだ」
かの女は手まねをして、なにか言いたいことがほかにあるという意味を示《しめ》した。
「十五日たたないうちに、ぼくはあなたの行くはずのドルジーへ訪《たず》ねて行きますよ」
かの女は首をふった。
「ぼくがドルジーへ行くのがいやなんですか」
わたしたちがおたがいに了解《りょうかい》しい合うために、わたしはそのうえにいろいろ問いを重ねていった。かの女は
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