い沈黙《ちんもく》が続《つづ》いた。
「わたしが決めたとおりにするのがいちばんいいことなのだ」とお父さんは続けた。
「ルミ、おまえはいちばん学者なのだから、妹のカトリーヌの所へ手紙を書いて、事がらをくわしく述《の》べて、すぐに来てくれるようにたのんでおくれ。カトリーヌおばさんは、なかなかもののわかった人だから、どうすればいちはんいいか、うまく決めてくれるだろう」
わたしが手紙を書くのはこれが初《はじ》めてでなかなか骨《ほね》が折《お》れた。それはひじょうに痛《いた》ましいことであったが、わたしたちはまだひと筋《すじ》の希望《きぼう》を持っていた。わたしたちはみんななにも知らない子どもであった。カトリーヌおばさんが来てくれるということ、かの女が実際家《じっさいか》であるということは、なにごとをもよくしてくれるであろうといふ希望《きぼう》を持たせた。
けれどかの女は思ったほど早くは来てくれなかった。四、五日ののちお父さんがちょうど友だちの一人を訪問《ほうもん》に出かけようとすると、ぱったり巡査《じゅんさ》に出会った。かれは巡査たちとうちへもどって来た。かれはひじょうに青い顔をしていた。
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