内証《ないしょう》にしてあった。もう一人この席《せき》にだいじな人が欠《か》けていた。それはあの気のどくなヴィタリス親方。
 親方の生きているあいだには、わたしはなにもこの人のためにしてやることができなかった。でもわたしは母にたのんで、この人のために大理石の墓《はか》を築《きず》かせた。その墓の上にはカルロ・バルザニの半身像《はんしんぞう》をすえさせた。その半身像の複製《ふくせい》はこうして書いているわたしの卓上《たくじょう》にあった。「思い出の記」を書いている間《ま》も、わたしはたびたび目を上げてこの半身像をながめた。わたしの目はわけなくこの像にひきつけられた。わたしはこの人をけっして忘《わす》れることができない。なつかしいヴィタリス親方を忘れることはできない。
 そう思っているとき、母が弟のうでにもたれかかって出て来た。弟のアーサはもうすっかりおとなになって、からだもじょうぶになって、いまではりっぱに母をだきかかえする人になっていた。母の後ろからすこしはなれて、フランスの百姓《ひゃくしょう》女のようなふうをした婦人《ふじん》が、白いむつき(おむつ)に包《つつ》まれた赤子をだいてつい
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