わたしの新しい家庭の場所はグラシエール、うちの名はアッケン家、植木屋が商売で、ピエール・アッケンというのがお父さんで、アルキシーに、バンジャメンという二人の男の子、それから女の子はエチエネットに、うちじゅうでいちばん小さいリーズでこれが家族|残《のこ》らずであった。
 リーズはおしであった。生まれつきのおしではなかったが、四度目の誕生日《たんじょうび》をむかえるすこしまえに、病気でものを言う力を失《うしな》った。この不幸《ふこう》は、でも幸せとかの女のちえを損《そこ》ないはしなかった。その反対にかの女のちえはなみはずれた程度《ていど》に発達《はったつ》した。かの女はなんでもわかるらしかった。でもその愛《あい》らしくって、活発で優《やさ》しい気質《きしつ》が、うちじゅうの者に好《す》かれていた。それで病身の子どもにありがちのうちじゅうのきらわれ者になるようなことのないばかりか、リーズのいるために、うちじゅうがおもしろくくらしている。むかしは貴族《きぞく》の家の長子に生まれると福分《ふくぶん》を一人じめにすることができたが、今日の労働者《ろうどうしゃ》の家庭では、総領《そうりょう》は
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