を見つめていたが、ふと食卓《しょくたく》から立ち上がって、一ぱいスープのはいっているおさらをわたしの所へ持って来て、ひざの上に置《お》いた。もうものを言うこともできなかったので、かすかにわたしは首をうなずかせて、お礼《れい》を言った。よし、わたしがものを言えたとしても、父親が口をきかせるひまをあたえなかった。
「おあがり」とかれは言った。「リーズが持って行ったのは、優《やさ》しい心でしたのだからね。もっと欲《ほ》しければまだあるよ」
 もっと欲しいかと言うのか。一ぱいのスープはみるみる吸《す》われてしまった。わたしがスープを下に置《お》くと、前に立ってながめていたリーズがかわいらしい満足《まんぞく》のため息をした。それからかの女はわたしの小ざらを取って、また父の所へ一ぱい入れてもらいに行った。いっぱいにしてもらうと、かの女はかわいらしい笑顔《えがお》をしながら、また持って来た。それがあんまりかわいらしいので、腹《はら》は減《へ》っていても、わたしは小ざらを取ることを忘《わす》れて、じっとその顔に見とれたくらいであった。二はい目の小ざらもさっそく初《はじ》めのと同様になくなった。もう子ど
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