いて行った。首を垂《た》れてときどきたんかにとび上がった。下にいろと言われると、犬はなんだかおそろしい声でうなったり、ほえたりした」
 かわいそうなカピ。役者であったじぶん、あの犬は何度ゼルビノのお葬式《そうしき》を送るまねをしたであろう。それはどんなにまじめくさった子どもでも、あの犬の悲しい様子を見ては笑《わら》わずにはいられなかった。カピが泣《な》けば泣くほど見物はよけい笑った。
 植木屋と子どもたちはわたしを一人|置《お》いて出て行った。まったくどうしていいか、どうしようというのかわからずに、わたしは起き上がって、着物を着かえた。わたしのハープはねむっていた寝台《ねだい》のすそに置《お》いてあった。わたしは肩《かた》に負い皮をかけて、家族のいる部屋《へや》へと出かけて行った。わたしはなんでも出かけて行かなければならない気がするが、さてどこへ行こうか。ねどこにいるうちはそんなに弱っているとも思わなかったが、起きてみるともう立つことが苦しかった。わたしはいすにすがって、やっと転《ころ》がらないょうに、からだを支《ささ》えなければならなかった。うちの人たちは炉《ろ》の前の食卓《しょくた
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