っかあが、いつもキッスするまえにわたしをながめるときのような感じであった。ヴィタリスが死んで、わたしは世の中に置《お》き去りにされたが、でももう独《ひと》りぼっちではない、という気がした。わたしを愛《あい》してくれる者が、まだそばにいるような気持ちがした。
「ああ、そうだ、リーズの言うとおりだ。こりゃああの子も聞くのがつらいだろうが、やはりほんとうのことは言わねばならぬ。わたしたちが言わないでも、巡査《じゅんさ》が話すだろうから」
お父さんはむすめのほうへ向きながら言った。そうしてなお話を続《つづ》けながら、警察《けいさつ》に届《とど》けたことや、巡査がヴィタリスを運んで行ったことや、わたしを長男のアルキシーの寝台《ねだい》にねかしたことなどを残《のこ》らず話してくれた。この話のすむのを待ちかねて、
「それからカピは――」とわたしは聞いた。
「なに、カピ」
「ええ。犬です」
「知らないよ。いなくなったよ」
「あの犬はたんかについて行ったよ」と子どもたちの一人が言った。「バンジャメン、おまえ見たかい」
「ぼくよく知ってるよ」ともう一人の子が答えた。「あの犬は釣台《つりだい》のあとからつ
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