とかれはやがて静《しず》かに言った。「ランプの灯《ひ》を見なさい。ずいぶん心細くなっているではないか」
「魔法使《まほうつか》いみたいなことを言うな。なんのわけだ、言ってみろ」
「おれは魔法使《まほうつか》いをやろうというのではない。だがおぼれて死ぬことはないだろう。おれたちは気室の中にいるのだ。その圧搾空気《あっさくくうき》で水が上がって来ないのだ。出口のないこの竪坑《たてこう》はちょうど潜水鐘《せんすいしょう》(潜水器)が潜水夫《せんすいふ》の役に立つと同じりくつになっているのだ。空気が竪坑にたくわえられていて、それが水のさして来る力をせき止めているのだ。そこでおそろしいのは空気のくさることだ……水はもう一|尺《しゃく》(約三〇センチ)も上がっては来ない。鉱山《こうざん》の中は水でいっぱいになっているにちがいない」
「マリウスはどうしたろう」
「鉱坑《こうこう》は水でいっぱいになっている」と言った「先生」のことばで、パージュは三|層《そう》目で働《はたら》いていた一人むすこのことを思い出した
「おお、マリウス、マリウス」とかれはまたさけんだ。
なんの返事もなかった。こだまも聞こえ
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