いた。きっと十二時か一時にもなったろう。空は相変《あいか》わらずどんよりしてすこしばかり星が出ていた。その出ていたすこしばかりの星もいつもよりはずっと小さいように思われて、風の勢《いきお》いは強くなるばかりであった。往来《おうらい》の家は戸閉《とじ》まりをしっかりしていた。そこに、夜着にくるまってねむっている人たちも、わたしたちが外でどんなに寒い目に会っているか、知っていたら、わたしたちのためにそのドアを開けてくれたろうと思われた。
親方はただのろのろ歩いた。息がだんだんあらくなって、長い道をかけた人のようにせいせい言っていた。わたしが話しかけると、かれはだまっていてくれという合図をした。
わたしたちはもう野原をぬけて、いまは町に近づいていた。そこここのへいとへいとの間にガス燈《とう》がちらちらしていた。親方は立ち止まったとき、かれがいよいよ力のつきたことをわたしは知った。
「一けんどこかのうちをたたきましょうか」とわたしはたずねた。
「いいや、入れてくれはしないよ。このへんに住んでいるのは植木屋だ。朝早く市場へみんな出かけるのだ。この時刻《じこく》にどうして起きてうちへ入れてくれ
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