、あれもなにかできるか」と父親がたずねた。「あれも自分の食いしろをかせぎ出さなければならん」
わたしはカピの芸《げい》にはひどくじまんであったから、かれにありったけの芸をやらした。例《れい》によってかれは大成功《だいせいこう》をした。
「おや、この犬はりっぱな金もうけになるぞ」と父親がさけんだ。
わたしはこの賞賛《しょうさん》でたいへんうれしくなって、カピに教えれば、教えたいと思うことはなんでも覚《おぼ》えることをかれに話した。父親はわたしの言ったことをイギリス語に翻訳《ほんやく》した。そのうえわたしの言ったほかになにかつけ加《くわ》えて言ったらしく、みんなを笑《わら》わせた。祖父《そふ》はたびたび目をぱちくりやって、「どうもえらい犬だ」と言った。
「だからわたしはマチアにも、いっしょにこのうちにいてくれるかと言いだしたわけさ」と父親が言った。
「ぼくはルミといつまでもいたいのです」とマチアが答えた。
「なるほど。それではわたしから申し出すことがあるが」と父親が言った。「わたしたちは金持ちではないから、みんながいっしょに働《はたら》いているのだ。夏になるとわたしたちはいなかを旅をして回って、子どもらは、向こうから買いに来てくれない人たちの所へ品物を持って売りに行くのだ。けれども冬になると、たんとすることがなくなるのだ。ところでおまえとルミにはこれから町へ出て音楽をやってもらおう。クリスマスが近いんだから、すこしは金ができるだろう。そこでネッドとアレンがカピを連《つ》れて行って、芸《げい》をやって笑《わら》わせるのだ。そういうふうなことにすれば、うまく仕事《しごと》がふり分けられるというものだ」
「カピはぼくとでなければ働《はたら》きません」とわたしはあわてて言った。わたしはこの犬と別《わか》れることはがまんできなかった。
「なあにあれはアレンや、ネッドとじきに仕事をすることを覚《おぼ》えるよ」と父親が言った。「そういうふうにしてよけい金を取るようにするのだ」
「おお、ぼくたちもカピといっしょのほうがよけい金が取れるのです」とわたしは言い張《は》った。 .
「もういい」と父親が手短に言った。「わたしがこうと言えばきっとそうするのだ。口返答をするな」
わたしはもうそのうえ言わなかった。その晩《ばん》とこにはいると、マ
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