くれ」とわたしはこしかけからとび上がってさけんだ。「きみはぼくの父親や母親のことをそんなふうに言っているが、ぼくはやはりあの人たちを尊敬《そんけい》しなければならない。愛《あい》さなければならない」
「そうだ。それがきみのうちの人なら、そうしなければ。だが……あの人たちは」
「きみ、あんなにたくさん証拠《しょうこ》のあるのを忘《わす》れたかい」
「なにがさ、きみは父さんにも母さんにも似《に》てはいない。あの子どもたちはみんな色が白いが、きみは黒い。それにぜんたいどうしてあの人たちが子どもを探《さが》すためにそんなにたくさんの金が使えたろうか。そういういろいろのことを集めてみると、ぼくの考えでは、きみはドリスコル家の人ではない。きみはバルブレンのおっかあの所へ手紙をやって、きみが拾われたときの産着《うぶぎ》がどんなふうであったか、たずねてみたらどうだ。それからきみがお父さんといま呼《よ》んでいるあの人に子どもがぬすまれたとき着ていた着物のくわしいことを聞かせてもらいたまえ。それまではぼくは動かないよ」
「でももしきみの気のどくな頭が、そのために一つ食らったらどうする」
「なあに友だちのためならぶたれても、そんなにつらくはないよ」とかれは笑《わら》いながら言った。
カピの罪《つみ》
わたしたちは晩《ばん》までレッド・ライオン・コートへ帰らなかった。父親と母親はわたしたちのいなかったことをなにも言わなかった。夕飯《ゆうめし》のあとで父親は二|脚《きゃく》のいすを炉《ろ》のそばへ引《ひ》き寄《よ》せた。すると祖父《そふ》からぐずぐず言われた。それからかれは、わたしたちがフランスにいたころ、食べるだけのお金が取れていたか、わたしから聞き出そうとした。
「ぼくたちは食べるだけのものを取っただけではありません。雌牛《めうし》を一頭買うだけのお金を取ったのです」とマチアはきっぱりと言った。そのついでにかれはその雌牛でどういうことが起こったか話した。
「おまえたちはなかなかりこうなこぞうだ」と父親が言った。「どのくらいできるかやっておみせ」
わたしはハープを取って一曲ひいたが、ナポリ小唄《こうた》ではなかった。マチアはヴァイオリンで一曲、コルネで一曲やった。中でコルネのソロが、ぐるりへ輪《わ》になって集まった子どもたちからいちばんかっさいを受けた。
「それからカピ
前へ
次へ
全163ページ中122ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング