でつながった。やじうまがわたしたちをつついたり白い歯を見せたり、ありったけひどい名前で呼《よ》んだりした。巡査《じゅんさ》が保護《ほご》してくれなかったら、かれらはひどい大罪人《だいざいにん》でもあるように、わたしたちを私刑《しけい》に行なったかもしれなかった。
役場を預《あず》かっている人で、典獄《てんごく》(刑務所の役人)と代理執行官《だいりしっこうかん》をかねていた人は、わたしたちを牢《ろう》に入れることを好《この》まなかった。わたしはなんという親切な人だろうと思ったけれど、巡査《じゅんさ》はあくまでわたしたちを拘留《こうりゅう》しなけばならないと言った。そこで典獄は二重になっているドアに、大きなかぎをつっこんで、わたしたちを牢《ろう》に入れてしまった。中へはいってはじめて、なぜ典獄《てんごく》がわたしたちを中へ入れることをおっくうがったかそのわけがわかった。かれはねぎをこの中へ干《ほ》しておいた。それがどのこしかけにも置《お》いてあった。かれはそれをみんなすみっこに積《つ》み重《かさ》ねた。わたしたちはからだじゅう捜索《そうさく》されて、金もマッチもナイフも取り上げられた。それからその晩《ばん》は閉《と》じこめられることになった。
「ぼくをぶってくれたまえ」とわたしたちだけになると、マチアが情《なさ》けなさそうに言いだした。
「ぼくの耳をぶつか、どうでも気のすむようにしてくれたまえ」
「ぼくも雌牛《めうし》のそばで、コルネをふかせるなんて、大きなばかだった」とわたしも答えた。
「ああ、ぼくはそれをずいぶん悪いことに思っている」かれはおろおろ声で言った。「かわいそうな雌牛、王子さまの雌牛」とかれは泣《な》き始めた。
そのときわたしはかれに、これはそんなにむずかしいことではないわけを話してなぐさめようとした。
「ぼくたちは雌牛《めうし》を買ったあかしを立《た》てればいいのだ。ユッセルの獣医《じゅうい》の所へ使いをやればいい……あの人が証人《しょうにん》になってくれる」
「でもそれを買った金までもぬすんだものだと言われたら」とかれは言った。「わたしたちはそれをもうけた証拠《しょうこ》がない。運悪くゆくと、みんなはどこまでも罪人《ざいにん》だと思うだろう」
これはまったくであった。
それにさしあたりだれか牛を養《やしな》ってくれるだろうかと、マチアががっかり
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