じたと同じくらいこのガスパールおじさんに対しては気持ちよく感じた。
「さあ、子どもどうし話をおしよ」とかれはゆかいそうに言った。「きっとおたがいにたんと話すことが積《つ》もっているにちがいない。わたしはこのコルネをそんなにじょうずにふく若《わか》い紳士《しんし》とおしゃべりをしよう」
アルキシーはわたしの旅の話を聞きたがった。わたしはかれの仕事の様子を知りたがった。わたしたちはおたがいにたずね合うのがいそがしくって、てんでに相手《あいて》の返事が待ちきれなかった。
うちに着くと、ガスパールおじさんはわたしたちを晩飯《ばんめし》に招待《しょうたい》してくれることになった。この招待ほどわたしをゆかいにしたものはなかった。なぜならわたしたちはさっきのおばさんの待遇《たいぐう》ぶりで、がっかりしきっていたから、たぶん門口《かどぐち》で別《わか》れることになるだろうと、道みちも思っていたからであった。
「さあ、ルミさんとお友だちのおいでだよ」おじさんはうちへはいりかけながらどなった。
しばらくしてわたしたちは夕食の食卓《しょくたく》にすわった。食事は長くはかからなかった。なぜなら金棒引《かなぼうひ》きであるこのおばさんは、その晩《ばん》ごくお軽少《けいしょう》のごちそうしかしなかった。ひどい労働《ろうどう》をする坑夫《こうふ》は、でもこごと一つ言わずに、このお軽少な夕食を食べていた。かれはなによりも平和を好《この》む、事《こと》なかれ主義《しゅぎ》の男であった。かれはけっしてこごとを言わなかった。言うことがあれば、おとなしい、静《しず》かな調子で言った。だから夕食はじきにすんでしまった。
ガスパールおばさんはわたしに、今晩《こんばん》はアルキシーといっしょにいてもいいと言った。そしてマチアにはいっしょに行ってくれるなら、パン焼《や》き場《ば》にねどこをこしらえてあげると言った。
その晩《ばん》それから続《つづ》いてその夜中の大部分、アルキシーとわたしは話し明かした。アルキシーがわたしに話したいちいちがきみょうにわたしを興奮《こうふん》させた。わたしはもとからいつか一度|鉱山《こうざん》の中にはいってみたいと思っていた。
でもあくる日、わたしの希望《きぼう》をガスパールおじさんに話すと、かれはたぶん連《つ》れて行くことはできまい、なんでも炭坑《たんこう》で働《はたら
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