》いている者のほかは、よその人を入れないことになっているからと言った。
「だがおまえ、坑夫《こうふ》になりたいと思えばわけのないことだ」とかれは言った。「ほかの仕事に比《くら》べて悪いことはないよ。大道で歌を歌うよりよっぽどいいぜ。アルキシーといっしょにいることもできるしな。なんならマチアさんにも仕事をこしらえてやる。だがコルネをふくほうではだめだよ」
 わたしは、ヴァルセに長くいるつもりはなかった。自分の志《こころざ》すことはほかにあった。それでついわたしの好奇心《こうきしん》を満《み》たすことなしに、この町を去ろうとしていたとき、ひょんな事情《じじょう》から、わたしは坑夫《こうふ》のさらされているあらゆる危険《きけん》を知るようになった。


     運搬夫《うんぱんふ》

 ちょうどわたしたちがヴァルセをたとうとしたその日、大きな石炭のかけらが、アルキシーの手に落ちて、危《あぶ》なくその指をくだきかけた。いく日かのあいだかれはその手に絶対《ぜったい》の安静《あんせい》をあたえなければならなかった。ガスパールおじさんはがっかりしていた。なぜならもうかれの車をおしてくれる者はなかったし、かれもしたがってうちにぶらぶらしていなければならなくなったからである。でもそれはかれにはひどく具合の悪いことであった。
「じゃあぼくで代わりは務《つと》まりませんか」とかれが代わりの子どもをどこにも求《もと》めかねて、ぼんやりうちに帰って来たとき、わたしは言った。
「どうも車はおまえには重たすぎようと思うがね」とかれは言った。「でもやってみてくれようと言うなら、わたしは大助かりさ。なにしろほんの五、六日使う子どもを探《さが》すというのはやっかいだよ」
 この話をわきで聞いていたマチアが言った。
「じゃあ、きみが鉱山《こうざん》に行っているうち、ぼくはカピを連《つ》れて出かけて行って、雌牛《めうし》のお金の足りない分をもうけて来よう」
 明るい野天の下で三月くらしたあいだに、マチアはすっかり人が変《か》わっていた。かれはもうお寺のさくにもたれかかっていたあわれな青ざめた子どもではなかった。ましてわたしが初《はじ》めて屋根裏《やねうら》の部屋《へや》で会ったとき、スープなべの見張《みは》りをして、絶《た》えず気のどくな痛《いた》む頭を両手でおさえていた化け物のような子ではなかった。マ
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