鉱山からすこしはなれた所にあった。
 わたしたちがその家に行き着くと、ドアによっかかって二、三人、近所の人と話をしていた婦人《ふじん》が、坑夫《こうふ》のガスパールは六時でなければ帰らないと言った。
「おまえさん、なんの用なの」とかの女はたずねた。
「わたしはおいごさんのアルキシー君に会いたいのです」
「ああ、おまえさん、ルミさんかえ」とかの女は言った。「アルキシーがよくおまえさんのことを言っていたよ。あの子はおまえさんを待っていたよ」こう言ってなお、「そこにいる人はだれ」と、マチアを指さした。
「ぼくの友だちです」
 この女はアルキシーのおばさんであった。わたしはかの女がわたしたちをうちの中へ呼《よ》び入れて休ませてくれることと思った。わたしたちはずいぶんほこりをかぶってつかれていた。けれどかの女はただ、六時にまた来ればアルキシーに会える、いまはちょうど鉱山《こうざん》へ行っているところだからと言っただけであった。
 わたしはむこうから申し出されもしないことを、こちらから請求《せいきゅう》する勇気《ゆうき》はなかった。
 わたしたちはおばさんに礼を述《の》べて、ともかくなにか食べ物を食べようと思って、パン屋を探《さが》しに町へ行った。「わたしはマチアがさぞ、なんてことだ」と思っているだろうと考えて、こんな待遇《たいぐう》を受けたのがきまり悪かった。こんなことなら、なんだってあんな遠い道をはるばるやって来たのであろう。
 これではマチアが、わたしの友人に対してもおもしろくない感じを持つだろうと思われた。これではリーズのことを話しても、わたしと同じ興味《きょうみ》で聞いてはくれないだろうと思った。でもわたしはかれがひじょうにリーズを好《す》いてくれることを望《のぞ》んでいた。
 おばさんがわたしたちにあたえた冷淡《れいたん》な待遇《たいぐう》は、わたしたちにふたたびあのうちへもどる勇気《ゆうき》を失《うしな》わせたので、六時すこしまえにマチアとカピとわたしは、鉱山《こうざん》の入口に行って、アルキシーを待つことにした。
 わたしたちはどの坑道《こうどう》から工夫《こうふ》たちが出て来るか教えてもらった。それで六時すこし過《す》ぎに、わたしたちは坑道の暗いかげの中に、小さな明かりがぽつりぽつり見え始めて、それがだんだんに大きくなるのを見た。工夫たちは手に手にランプを持ち
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