った。そうとすればわたしたちはなによりまずヴァルセへ行ってバンジャメンに会う。その道にできるだけほうぼうで演芸《えんげい》をして歩こう。それから帰り道に金ができるかもしれないから、そのときシャヴァノンへ行って、王子さまの雌牛《めうし》のおとぎ芝居《しばい》を演《えん》じることにしよう。
わたしはマチアにこのくわだてを話した。かれはこれになんの異議《いぎ》をも唱《とな》えなかった。
「ヴァルセへ行こう」とかれは言った。「ぼくもそういう所へは行って見たいよ」
煤煙《ばいえん》の町
この旅行はほとんど三月かかったが、やっとヴァルセの村はずれにかかったときに、わたしたちはむだに日をくらさなかったことを知った。わたしのなめし皮の財布《さいふ》にはもう百二十八フランはいっていた。バルブレンのおっかあの雌牛《めうし》を買うには、あとたった二十二フラン足りないだけであった。
マチアもわたしと同じくらい喜《よろこ》んでいた。かれはこれだけの金をもうけるために、自分も働《はたら》いたことにたいへん得意《とくい》であった。実際《じっさい》かれのてがらは大きかった。かれなしには、カピとわたしだけで、とても百二十八フランなんという金高の集まりようはずがなかった。これだけあれば、ヴァルセからシャヴァノンまでの間に、あとの足りない二十二フランぐらいはわけなく得られよう。
わたしたちが、ヴァルセに着いたのは午後の三時であった。きらきらした太陽が晴れた空にかがやいていたが、だんだん町へ近くなればなるほど空気が黒ずんできた。天と地の間に煤煙《ばいえん》の雲がうずを巻《ま》いていた。
わたしはアルキシーのおじさんがヴァルセの鉱山《こうざん》で働《はたら》いていることは知っていたが、いったい町中《まちなか》にいるのか、外に住んでいるのか知らなかった。ただかれがツルイエールという鉱山で働いていることだけ知っていた。
町へはいるとすぐわたしはこの鉱山《こうざん》がどのへんにあるかたずねた。そしてそれはリボンヌ川の左のがけの小さな谷で、その谷の名が鉱山の名になっていることを教えられた。この谷は町と同様ふゆかいであった。
鉱山《こうざん》の事務所《じむしょ》へ行くと、わたしたちはアルキシーのおじさんのガスパールのいる所を教えられた。それは山から川へ続《つづ》く曲がりくねった町の中で、
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