はこの話を続《つづ》けるのを好《この》まないように炉《ろ》のほうへ行った。炉のたなの上に大きななべがあった。わたしは火に当たろうと思ってそばへ寄《よ》ると、このなべがなんだか変《か》わった形をしているのに気がついた。なべのふたにはまっすぐな管《くだ》がつき出して、蒸気《じょうき》がぬけるようになっていた。そのふたはちょうつがいになっていて、一方には錠《じょう》がかかっていた。
「なぜ錠ががかっているの」と、わたしはふしぎそうにたずねた。
「ぼくがスープを飲まないようにさ。ぼくはなべの番を言いつかっているけれど、親方はぼくを信用《しんよう》しないのだ」
わたしはほほえまずにはいられなかった。
するとかれは悲しそうに言った。
「きみは笑《わら》うね。ぼくが食いしんぼだと思うからだろう。でもきっときみがぼくの境遇《きょうぐう》だったら、ぼくと同じことをしたかもしれないよ。ぼくはぶたではないけれど、腹《はら》が減《へ》っている。だからなべの口からスープのにおいがたてば、ますます腹が減ってくるのだ」
「ガロフォリさんはきみにじゅうぶん食べるものをくれないの」
「ああ、それが罰《ばつ》なんだ…
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