たしのような老《お》いぼれになんの技術《ぎじゅつ》がありますものか」とかれは冷淡《れいたん》に答えた。
「うるさいやつとおぼしめすでしょうが」と婦人《ふじん》はまた始めた。
「なるほどあなたのようなまじめなかたの好奇心《こうきしん》を満足《まんぞく》させてあげましたことはなによりです」とかれは言った。「犬使いにしては少し歌が歌えるというので、あなたはびっくりしておいでだけれど、わたしはむかしからこのとおりの人間ではありませんでした。これでも若《わか》いじぶんにはわたしは……いや、ある大音楽家の下男《げなん》でした。まあおうむのように、わたしは主人の口まねをして覚《おぼ》えたのですね。それだけのことです」
婦人《ふじん》は答えなかった。かの女は親方の顔をまじまじと見た。かれもつぎほのないような顔をしていた。
「さようなら、あなた」とかの女は外国なまりで言って、「あなた」ということばに力を入れた。
「さようなら。それからもう一度今夜味わわせていただいた、このうえないゆかいに対してお礼を申し上げます」こう言ってカピのほうをのぞいて、ぼうしに金貨《きんか》を一|枚《まい》落とした。
わたし
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