めは宿屋の亭主もわたしたちに目をくれようともしなかった。けれども親方のもっともらしい様子がみごとにかれを圧迫《あっぱく》した。かれは女中に言いつけて、わたしたちを一間《ひとま》へ通すようにした。
「早くねどこにおはいり」と親方は女中が火をたいている最中《さいちゅう》わたし言った。わたしはびっくりしてかれの顔を見た。なぜねどこにはいるのだろう。わたしはねどこなんかにはいるよりも、すわってなにか食べたほうがよかった。
「さあ早く」
でも親方がくり返した。
服従《ふくじゅう》するよりほかにしかたがなかった。寝台《ねだい》の上には鳥の毛のふとんがあった。親方がそれをわたしのあごまで深くかけた。
「少しでも温まるようにするのだ」とかれは言った。「おまえが温まれば温まるほどいいのだ」
わたしの考えでは、ジョリクールこそわたしなんぞよりは早く温まらなければならない。わたしのほうは、いまではもうそんなに寒くはなかった。
わたしがまだ毛のふとんにくるまってあったまろうと骨《ほね》を折《お》っているとき、親方はジョリクールを丸《まる》くして、まるで蒸《む》し焼《や》きにして食べるかと思うほど火の上
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