た。雪の上にただ二ひきの犬の足あとがぽつぽつ残《のこ》っていた。わたしたちはその足あとについて小屋の回りを歩いた。するとややはなれて雪の中でなにかけものが転《ころ》がり回ったようなあとがあった。
「カピ、行って見て来い」と親方は言った。同時にかれはゼルビノとドルスを呼《よ》び寄《よ》せる呼《よ》び子《こ》をふいた。
 けれどこれに答えるほえ声は聞こえなかった。森の中の重苦しい沈黙《ちんもく》を破《やぶ》る物音はさらになかった。カピは言いつけられたとおりにかけ出そうとはしないで、しっかりとわたしたちにくっついていた。いかにも恐怖《きょうふ》にたえない様子であった。いつもはあれほど従順《じゅうじゅん》でゆうかんなカピが、もう足あとについてそれから先へ行くだけの勇気《ゆうき》がなかった。わたしたちの回りだけは雪がきらきら光っていたが、それから先はただどんよりと暗かった。
 もう一度親方は呼《よ》び子《こ》をふいて、迷《まよ》い犬《いぬ》を呼びたてた。でもそれに答える声はなかった。わたしは気が気でなかった。
「ああ、かわいそうなドルス」親方はわたしの心配しきっていることをすっぱり言った。
「お
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