わたしたちはまた少ししか歩いてはいなかった。雪の降《ふ》るまえにトルアに着くということは、むずかしいことに思われた。けれどわたしは心配しなかった。雪が降りだせば風がやんで、かえって寒さもゆるむだろうと思った。
 わたしはまだ雪風というものがどんなものだかよく知らなかった。
 しかしまもなくそれがほんとうにわかった。しかもわたしにはけっして忘《わす》れることのできないものであった。
 雲が東北からむくむく集まって来た。そこの空にかすかな明るみが見えたと思うと、やがて雲のふところが開いて、どんどん大きな雪のかたまりが落ちて来た。もう空中をちょうちょうのようにはまわなかった。ふんぷんとすばらしい勢《いきお》いで降《ふ》って来て、わたしたちの目鼻を開けられないようにした。
「とてもトルアまではだめだ。なんでもうちを見つけしだい休むことにしよう」と親方が言った。
 わたしは親方がそう言うのを聞いてうれしかったけれども、いったいうまく休むうちが見つかるであろうか。まだそこらが白くならないまえにわたしが見ておいたかぎりでは、一けんもうちは見えなかった。そればかりではない。おいおい村に近づいている
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