、ミリガン夫人《ふじん》は貴婦人《きふじん》である、それが似《に》かよったところがあるはずがないと思った。
だがそう思いながら、よくよく見ると、わたしの目がまちがわないことが確《たし》かになった。親方はそうなろうと思えば、ミリガン夫人が貴婦人であると同様に紳士《しんし》になることができた。ただちがうことは、ミリガン夫人がいつでも貴婦人であるのに反して、親方がある場合だけ紳士であるということであった。でも一度そうなれば、それはりっぱな紳士になりきって、どんな向こう見ずな、どんな乱暴《らんぼう》な人間でも、その威勢《いせい》におされてしまうのであった。
だからもともと向こう見ずでも、乱暴でもなかったわたしは、よけい威勢に打たれて、言いたいことも言い得《え》ずにしまった。それは向こうから優《やさ》しいことばでさそい出してくれるときでもそうであった。
セットをたってからのち、しばらくわたしたちはミリガン夫人《ふじん》のことや、白鳥号に乗っていたあいだのことを口に出すことをしなかった。けれどもだんだんとそれが話の種《たね》になるようになって、まず親方がいつも話の口を切った。そうしてそれから
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