ない》しましょう」とわたしは言った。
「それにはおよばないよ」とかれは答えた。「わたしは一人で上がって行く。おまえはここでジョリクールや、犬たちといっしょにわたしを待っておいで」
 わたしは、いつでもかれに従順《じゅうじゅん》であったけれども、この場合はかれといっしょにミリガン夫人《ふじん》の部屋に行くことが、わたしとしてむろん正当でもあり自然《しぜん》なことだと思っていた。けれども手まねでかれがわたしのくちびるに出かかっていることばをおさえると、わたしはいやいや犬やさるといっしょに下に残《のこ》っていなければならなかった。
 どうしてかれはミリガン夫人と話をするのにわたしのいることを好《この》まなかったか。わたしはこの質問《しつもん》を心の中でくり返しくり返したずねた。それでもまだ明快《めいかい》な答えが得《え》られずに考えこんでいたときにかれはもどって来た。
「行っておくさんに、さようならを言っておいで」とかれはことば短に言った。「わたしはここで待っていてやる。あと十分のうちにたつのだから」
 わたしはかみなりに打たれたような気がした。
「それ」とかれは言った。「おまえはわたしの言
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