、かれらはぬけ出したのであった。ほえながらかれらは前へとび出した。わたしはかれらが親方にとびかかるのを見た。ほかの二ひきに比《くら》べてははげしくしかもしたたかにカピが、いきなり主人のうでにとびかかった。ゼルビノとドルスがその足にとびかかった。
親方はわたしを見つけると、手早くカピをどけて、両うでをわたしのからだに投げかけた。初《はじ》めてかれはわたしにキッスした。
「ああよく無事《ぶじ》でいてくれた」とかれはたびたび言った。
親方はこれまでわたしにつらくはなかったが、こんなふうに優《やさ》しくはなかった。わたしはそれに慣《な》れていなかった。それでわたしは感動して、思わずなみだが目の中にあふれた。それにいまのわたしの心持ちはたやすく物に動かされるようになっていた。わたしはかれの顔をながめた。刑務所《けいむしょ》にはいっているまにかれはひじょうに年を取った。背中《せなか》も曲がったし、顔は青いし、くちびるに血の気《け》はなかった。
「ルミ、わたしは変《か》わったろう。なあ」とかれは言った。「刑務所《けいむしょ》はけっしてゆかいな所ではなかった。それに苦労《くろう》というものは、たち
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