問《ぎもん》を心の中でくり返しくり返しするうちに、わたしは暗い空の上にかがやいている星を見た。そよとの風もなかった。どこもかしこもしんとしていた。木の葉のそよぐ音もしない。鳥の鳴く声もしない。街道《かいどう》を車のとろとろと通る音もしない。目の届《とど》く限《かぎ》りは青白い空が広がっていた。わたしたちは独《ひと》りぼっちであった。世の中から捨《す》てられていた。
 なみだは目の中にあふれた。バルブレンのおっかあはどうしたろう。気のどくなヴィタリスは。
 わたしはうつぶしになって、顔を両手でかくして、しくしく泣《な》いていた。するとふと、かすかな息が髪《かみ》の毛《け》にふれるように思った。わたしはあわててふり向いた。そのひょうしに大きなやわらかな舌《した》がなみだにあふれたわたしのほおをなめた。それはカピが、わたしの泣き声を聞きつけて、あのわたしの流浪《るろう》の初《はじ》めての日にしてくれたように、今度もわたしをなぐさめに来てくれたのである。
 両手でわたしはかれの首をおさえて、そのしめった鼻にキッスした。かれは二、三度おし殺《ころ》したような悲しそうな鼻声を出した。それがわたしと
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