うであった。カピは腹《はら》を立てて歯をむき出すと、少しおくびょう者のゼルビノはすごすごだまってしまった。だまるということばにも少し説明《せつめい》が要《い》るが、ここではころりと横になることを言うのである。
 そこで残《のこ》ったのは今夜の宿《やど》の問題だけだ。
 時候《じこう》はよし、暖《あたた》かい、いい天気であった。だから青天井《あおてんじょう》の下にねむることはさしてむずかしいことではなかった。ただこのへんに悪いおおかみでもいるようなら、それをさけるようにすればよかった。おおかみよりもおそろしい農林監察官《のうりんかんさつかん》からさけることもさらに必要《ひつよう》であった。
 わたしたちは白い道の上をずんずんまっすぐに進んで行った。山のはしに落ちかけた赤い夕日の最後《さいご》の光が空から消えるころまで、宿《やど》を求《もと》めて歩き続《つづ》けたが、まだ見つからなかった。
 もう善悪《ぜんあく》なしに、どうでもとまらなければならなかった。やっと林の間に出た。そこここに大きな花《か》こう岩《がん》が転《ころ》がっていた。この場所はずいぶんあれたさびしい所であったが、それより
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