んめいになったことはなかった。
 二|節《せつ》目の終わりになったとき、背広《せびろ》を着て、ラシャのぼうしをかぶった男が目にはいった。その男はわたしのほうへ歩いて来るらしかった。
 とうとうやって来たな。
 わたしはそう思って、いよいよむちゅうになって歌った。
「これこれこぞう、ここでなにをしている」と、その男はどなった。
 わたしはびっくりして歌をやめた。ぽかんと口を開いたまま、そはへ寄《よ》って来るその男をぼんやりながめた。
「なにをしているというのだ」
「はい、歌を歌っています」
「おまえはここで歌を歌う許可《きょか》を得《え》たか」
「いいえ」
「ふん、じやあ行け。行かないと拘引《こういん》するぞ」
「でも、あなた……」
「あなたとはなんだ、農林監察官《のうりんかんさつかん》を知らないか。出て行け、こじきこぞうめ」
 ははあ、これが農林監察官か。わたしは親方の見せたお手本で、警官《けいかん》や監察官《かんさつかん》に反抗《はんこう》すると、どんな目に会うかわかっていた。わたしはかれに二度と命令《めいれい》をくり返させなかった。わたしは急いでわき道へにげだした。
 こじきこぞう
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