どこへ行ったらいいでしょう」
「それはわたしの知ったことではない。わたしはおまえのおやじでも親方でもなんでもないからな。どうしておまえの世話をしてやれよう」
しばらくのあいだわたしは目がくらくらとした。亭主《ていしゅ》の言うことはもっともであった。どうしてかれがわたしの世話をしてくれよう。
「さあ、犬とさるを連《つ》れて出て行ってくれ。親方の荷物は預《あず》かっておく。親方が刑務所《けいむしょ》から出て来れば、いずれここへ寄《よ》るだろうし、そのときこちらの始末《しまつ》もつけてもらおう」
このことばから、ある考えがわたしの心にうかんだ。
「いずれそのときはお勘定《かんじょう》をはらうことになるでしょうから、それまでわたしを置《お》いてはくださいませんか。その勘定にわたしのぶんも加《くわ》えてはらえばいいでしょう」
「おやおや、おまえの親方は二日分の食料《しょくりょう》ぐらいははらえるかもしれんが、二か月などはとてもとてもだ。そりやあまるで別《べつ》な話だよ」
「わたしはいくらでも少なく食べますから」
「だが、犬もいればさるもいる。いけないいけない。出て行ってくれ。どこかいなかで仕
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