よ》せた。けれどもかれはとても言うことを聞くどころではなかった。わたしがつかまえようとすると、ちょろちょろにげ出して、す早く身をかわしては、相変《あいか》わらずとことこ歩いていた。
 どうしてそんなことになったかわからなかったが、たぶん巡査《じゅんさ》はあんまり腹《はら》を立てて気がちがったのであろう。なんでもわたしがさるをけしかけているように思ったとみえて、いきなりなわ張《ば》りの中へとびこんで来た。
 と思うまにかれはとびかかって来て、ただ一打ちでわたしを地べたの上にたたきたおした。
 わたしが目を開いて起き上がろうとすると、ヴィタリス老人《ろうじん》はどこからとび出して来たものか、もうそこに立っていた。かれはちょうど巡査《じゅんさ》のうでをおさえたところであった。
「わたしはあなたがその子どもを打つことを止めます。なんというひきょうなまねをなさるのです」とかれはさけんだ。
 しばらくのあいだ二人の人間はにらみ合って立っていた。
 巡査《じゅんさ》はおこってむらさき色になっていた。
 親方はどうどうとした様子であった、かれは例《れい》の美しいしらが頭をまっすぐに上げて、その顔には憤
前へ 次へ
全320ページ中136ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング