ちらを見ても明かりは見えなかった。ただもうきみょうな物の形と、大きな樹木《じゅもく》が、いまにもわたしをつかもうとするようにうでを延《の》ばしているだけであった。
わたしは耳を立てて、犬の声か、雌牛《めうし》のうなり声でも聞こえはしないかと思ったが、ただもうしんと静《しず》まり返っていた。
どうかして聞き取ろうと思うから、耳をすませて、自分の立てる息の音さええんりょをして、わたしはしばらくじっと立っていた。
ふとわたしはぞくぞく身ぶるいがしだした。このさびしい、人気《ひとけ》のない荒野原《あらのはら》の静《しず》けさが、わたしをおびやかしたのであった。なんにわたしはおびえたのであったか、たぶんあまり静《しず》かなことが……夜が……とにかく言いようのない恐怖《きょうふ》がわたしの心にのしかかるようにしたのであった。わたしの心臓《しんぞう》は、まるでそこになにか危険《きけん》がせまったようにどきついた。
わたしはこわごわあたりを見回した。するとそのとき、遠方に大きな姿《すがた》をしたものが木の中で動いているのを見た。それといっしょにわたしは木のえだのがさがさいう音を聞いた。
わた
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