は」
「パンがゆ」
「それからまだあるだろう」
「だって……ぼく知らないや」
「なあに、おまえは知っていても、かしこい子だからそれを言おうとしないのだよ。きょうが謝肉祭《しゃにくさい》で、どら焼《や》きをこしらえる日だということを知っていても、バターとお乳《ちち》がないと思って、言いださずにいるのだよ。ねえ、そうだろう」
「だって、おっかあ」
「まあとにかく、きょうのせっかくの謝肉祭《しゃにくさい》を、そんなにつまらなくないようにしたつもりだよ。このはこの中をご覧《らん》」
わたしはさっそくふたをあけると、乳《ちち》とバターと卵《たまど》と、おまけにりんごが三つ、中にはいっていた。
わたしがりんごをそぐ(小さく切る)と、おっかあは卵《たまご》を粉《こな》に混《ま》ぜて衣《ころも》をしらえ、乳《ちち》を少しずつ混ぜていた。
衣がすっかり練《ね》れると、土《ど》なべのまま、熱灰《あつばい》の上にのせた。それでどら焼《や》きが焼け、揚《あ》げりんごが揚がるまでには、晩食《ばんしょく》のときまで待たなければならなかった。正直に言うと、わたしはそれからの一日が、それはそれは待ち遠しくって、
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