ひどくぶった。おかげでこのとおりはれ上がった。見たまえ、この大きなこぶを。あいつはきのうぼくに、これはできものだと言った。そう言ったあの人の様子はなんだかまじめだった。おそろしく痛《いた》むのだ。夜になるとひどく目がくらんでまくらに頭をつけるとぼくはうなったり泣《な》いたりする。それがほかの子どものじゃまになるのをガロフォリはひどくきらっている。だから二日か三日のうちにいよいよあの人もぼくを病院へやることに決めるだろうと思う。ぼくは先《せん》に慈恵病院《じけいびょういん》にいたことがある。お医者さんはかくしに安いお菓子《かし》をいつも入れているし、看護婦《かんごふ》の尼《あま》さんたちがそれは優《やさ》しく話をしてくれるよ。こう言うんだ。ぼうや、舌《した》をお出しとか、いい子だからねとかなんでもなにかしたいたんびに、『ああ、おしよ』と言ってくれる。それがうちにいる母さんと同じ調子なんだ。ぼくはどうも今度は病院へ行くほど悪くなっていると思う」
 かれはそばへ寄《よ》って来て、大きな目でじっとわたしを見た。わたしはかれの前に真実《しんじつ》をかくす理由はなかったが、しかしかれの大きなぎょろぎょろした目や、くぼんだほおや、血の気《け》のないくちびるがどんなにおそろしく見えるかということを、かれに語ることを好《この》まなかった。
「きみは病院へ行かなければならない。ずいぶん悪いと思うよ」
「いよいよかね」
 かれは足を引きずりながらのろのろ食卓《しょくたく》のほうへ行って、それをふき始めた。
「ガロフォリがまもなく帰って来る」とかれは言った。「ぼくたちはもう話をしてはいけない。もうこれだけぶたれているのだ。このうえよけいなぐられるのは損《そん》だからね。なにしろこのごろいただくげんこは先《せん》よりもずっと効《き》くからね。人間はなんでも慣《な》れっこになるなんて言うが、それはお人よしの言うことだよ」
 びっこひきひきかれは食卓《しょくたく》の回りを回って、さらやさじならべた。勘定《かんじょう》すると二十|枚《まい》さらがあった。そうするとガロフォリは二十人の子どもを使っているのだ。でも寝台《ねだい》は十二しか見えなかったから、かれらのある者は一つの寝台に二人ねむるのだ。それにとにかくなんという寝台であろう。なんというかけ物であろう。かけ物の毛布《もうふ》はうまやから、もう
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